昨今ネットなどで「ポジティブトレーニング」という言葉をよく見かけるようになりました。

ドッグトレーニングのお仕事をさせていただいていると、クライアント様からも「 USHIO さんはポジティブトレーニングだから安心です!」といったお言葉を頂戴することがあります。お褒めの言葉として、とても嬉しく思う反面「ポジティブトレーニングって、なんなんやろ?」というモヤモヤっとした気持ちも。。。^^;

この「ポジティブトレーニング」という言葉、ドッグトレーニングを含むアニマルトレーニング (脊椎動物のトレーニング) の用語としては存在しないので、ドッグトレーナーで使っている方はいらっしゃらないと思います。

たぶん、一般の飼い主さんがドッグトレーニング (行動分析学) の用語として使われる「ポジティブ」という単語を誤解釈して生まれた言葉なのかな~、と勝手に想像しているのですが。。。

ポジティブって、なんなん?

ポジティブ ( positive ) を英和辞典で引くと

  1. 積極的であるさま。肯定的であるさま。
  2. 写真の陽画。ポジ。また、像。
  3. 電気の陽極。プラス。
  4. 数学の「+」加算記号。正の数。

といった意味が出てきます。

この中で「ポジティブトレーニング」と言った際に、皆さんがイメージされるのは、多分1番目の「積極的・肯定的」という意味なのではないでしょうか?

行動理論に基づいてトレーニングを進めるトレーナーさんの中には、「褒めるしつけ」や「褒めて育てるトレーニング」などと謳っているトレーナーさんもいらっしゃるので、「褒める≒肯定的=ポジティブ」というイメージにつながりやすいのは確かだと思います。

でも実際は、アニマルトレーニング (ドッグトレーニング) でポジティブ (Positive) という単語が使われる場合、それは行動分析学の専門用語になるので、意味としては4番目の「数学の『+』記号 / 正の数」という意味になります。

余談ですが、1990年代はポジティブ ( positive ) を「陽性」と訳していた書籍があり、そこから「陽性強化」という用語が存在したため、当時はプロのトレーナーですらその意味を誤解している方も多かったようです。

ちなみに「陽性」を辞書で引くと

  1. 積極的で、陽気なこと。内にこもらないで、開放的な感じであること。
  2. 医学の検査などで、ある刺激に対して反応がはっきり現れること。

と出てきます。

医療では陽性は「+」と表記されますし、あえて言えば2番目の語釈が当てはまりそうですが、加算の意味からは少し外れているようにも感じます。

で、ポジティブって?

アニマルトレーニング (ドッグトレーニング) は

  1. 環境の変化によって個体が刺激を受ける (先行事象・弁別刺激 : Antecedent)
  2. その個体になんらかの行動が発生する (行動 : Behavior)
  3. 行動の直後、その個体に物や事が加算「+」または減算「ー」される (結果事象 : Consequence)

という一連の事象 (三項随伴性) を意図的にコントロールすることによって成り立っています。
(英単語の頭文字をとって行動の ABC と呼ばれています)

わかりやすい例だと

ポジティブな強化

  1. 飼い主が「オスワリ」と言う (先行事象・弁別刺激)
  2. 愛犬が座る (行動)
  3. 飼い主が愛犬にミートボールを与える (加算「+」の結果事象)

といった感じです。
この場合、加算「+」は「ポジティブトレーニング」のイメージ通りですよね。
毎回この状況が発生すると愛犬が「オスワリ」をする確立は高まります。

これをポジティブ・レインフォースメント  (正の強化 : Positive Rainforcement)  といいます。

ただし、ポジティブには違う例もあって、例えば

ポジティブな弱化

  1. 飼い主が「オスワリ」と言う (先行事象・弁別刺激)
  2. 愛犬が座る (行動)
  3. 飼い主が愛犬を殴る (加算「+」の結果事象)

といった感じです。
この場合、加算「+」は「ポジティブトレーニング」のイメージとは異なりますよね?
でも、愛犬の行動に対して「殴られる」という結果事象が加算「+」されているので、これも「ポジティブ」です。
毎回この状況が発生すると愛犬が「オスワリ」をする確立は低下します。

これをポジティブ・パニッシュメント (正の弱化・正の罰 : Positive Punishment) といいます。

アメもムチもポジティブ

前述の通り「ポジティブ」には「強化」と「弱化」があるので、単に「ポジティブトレーニング」と言ってしまうと、古典的なアメとムチ方式のトレーニングはまさに「ポジティブトレーニング」の両刀遣い。王道ということになりますよね。

ただし、多くの方にとって「ポジティブトレーニング」という言葉は、そういう意味で使われているわけではないと思いますので、冒頭で述べたようにモヤモヤっとしてしまうわけです。。。^^;

実はこれ、多くのトレーナーさんが伝え方に苦労している点でもあるんです。

「褒めるしつけ」や「褒めて育てるトレーニング」という表現を使うトレーナーさんは結構いらっしゃるのですが、これはこれで「甘やかすしつけ」や「食べ物で釣るしつけ」のように誤解されることも多く、表現としてどうなんだろう?と感じています。

他にも「正の強化を使ったトレーニング」 (長いし意味分からん) とか、欧米でよく使われる「R+」 (「Rainforcement +」正しく短くカッコイイけどやっぱ意味分からん) とか、トレーナーの皆さんも色々と伝え方に苦労されているようで、それは USHIO.net ドッグトレーニング でも同様です。^^;

スパッと分かりやすい日本語の表現があると良いのですけど。。。

最後に

駆け足で「ポジティブトレーニング」という表現について「気持ちは伝わるけど、どうなんだろう?」「もっと正しい、良い表現ないの?」というモヤモヤをお伝えさせていただきましたが、いかがだったでしょうか。

「ポジティブ」「ネガティブ」「強化」「弱化」「罰」など、行動分析学の専門用語には、普段よく使う言葉なのに日常感覚で使えない「意味の厳格な言葉」がたくさん存在しています。

後半で出てきたパニッシュメント (弱化・罰 : Punishment) という用語も「行動の生起頻度が下がる」という単純明快な意味なのですが、「罰」という言葉のイメージから、間違った解釈をする方が多発する、ややこしい言葉です。

更に詳しく知りたいゾ!という方はぜひ USHIO.net ドッグトレーニング にご依頼いただき、基礎からしっかり学んでみてください。^^

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